AWS Systems Managerを使ったインフラの一元管理と自動化
目次
前提としてのAWSの運用の考え方
AWSを利用してシステムを運用する際には、「Well-Architected Framework(ウェルアーキテクテッドフレームワーク)」という考え方が基本となります。これは、AWSが提供するシステム設計と運用のベストプラクティス(最適な方法)をまとめたガイドラインです。このフレームワークに従うことで、安全で効率的、かつコスト効果の高い運用が可能になります。
Well-Architected Frameworkは、以下の5つの柱で構成されていますが、そのうち、運用上の優秀性(Operational Excellence)において、運用の考え方がまとまっています。設計原則として8つの項目がまとまっていますが、要約すると以下のとおりです。
- 継続的な改善…運用手順を頻繁に、小さく、可逆的に変更・見直す
- 可観測性を重視してデータドリブンな運用…データに基づき、システム障害などの事前予測と排除を行う。また、運用のための主要業績評価指標 (KPI) を設定し、モニタリングを行う
- 自動化…AWSのマネージドサービスやコード、自動化の仕組みを十分に使って運用する
AWS Systems Managerとは?
AWS Systems Managerは、AWS上で稼働するリソースを効率的に管理するためのツールです。特にEC2インスタンス(AWSが提供する仮想サーバー)の管理に役立つだけでなく、オンプレミス環境(自社のデータセンターなど)にあるサーバーも一括して管理できるのが大きな特徴です。企業のIT担当者にとって、AWSとオンプレミス両方の環境を管理するのは負担が大きくなりがちですが、AWS Systems Managerを導入することで、これらの環境を一つの画面から統合管理できるようになります。結果として、システム運用の効率化とコスト削減を実現できる便利なサービスです。
AWS Systems Managerでできること
AWS Systems Managerを活用することで、以下のようなさまざまな運用管理が可能になります。
定型保守作業の自動化
毎日のシステムチェックや定期的なアップデート作業など、繰り返し発生する保守作業を自動化できます。これにより、手作業によるミスを減らし、運用負荷を大幅に軽減します。
IT資産管理
管理対象のサーバーやアプリケーションの状態、インストールされているソフトウェア情報などを自動的に収集・管理できます。これにより、資産状況の可視化が進み、セキュリティ対策や監査対応がスムーズに行えるようになります。
パラメータの保存と管理
パスワードやAPIキーなどの機密情報、システム設定値などを安全に保存し、必要に応じて簡単に呼び出せる機能があります。これにより、セキュリティを保ちながら効率的にシステム設定を管理できます。
これらの機能を活用することで、AWS環境とオンプレミス環境の両方を簡単に管理し、システム運用の負担を大きく減らすことが可能になります。
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AWS Systems Managerの機能
AWS Systems Managerには、システム運用を効率化するための多くの便利な機能が用意されています。以下に主要な機能を紹介します。
- Documents
運用手順やスクリプトを文書として定義し、自動化処理に利用できます。繰り返し行う作業を定義しておけば、誰でも同じ手順で実行可能になります。 - Parameter Store
パスワードやAPIキー、設定値などの機密情報を安全に保存・管理できるサービスです。これらの機密情報などはコードに埋め込むと思わぬ漏洩を招くことがあるため、AWSに保存しておくための機能です。アクセス制御も設定でき、必要なときに安全に呼び出せます。 - OpsCenter
システムの異常や問題(インシデント)を一元管理する機能です。障害発生時に迅速な対応が可能になります。 - Resource Groups
リソースをグループ化して管理する機能です。例えば、特定のプロジェクトやアプリケーションごとにリソースをまとめて管理できます。 - Maintenance Windows
定期的なメンテナンス作業のスケジュールを設定する機能です。計画的にアップデートやパッチ適用が行えます。 - Run Command
リモートからサーバーにコマンドを一括実行できる機能です。システム全体への設定変更や更新作業を簡単に実行できます。 - Automation
定型作業や運用プロセスを自動化する機能です。たとえば、サーバーのバックアップや再起動を自動化できます。 - Distributor
ソフトウェアを複数のサーバーに一括で配布する機能です。手間のかかるインストール作業を効率化できます。 - Session Manager
AWS環境内のサーバーに対して、セキュアなリモート接続を提供する機能です。SSH接続が不要になり、AWSコンソールからサーバーに接続する機能を提供するため、セキュリティが向上します。 - State Manager
サーバーやシステムの設定状態を常に一定に保つための機能です。設定の逸脱が発生した場合、自動で修復できます。 - Inventory
サーバー内のソフトウェアや設定情報を自動的に収集し、IT資産管理をサポートします。セキュリティ対策や監査の際にも役立ちます。 - Patch Manager
サーバーに対して自動でセキュリティパッチを適用する機能です。手動でのアップデート作業が不要になり、セキュリティリスクを低減できます。
これらの機能を活用することで、AWS環境全体をより効率的かつ安全に管理できるようになります。特に大規模な環境を運用する場合でも、一元的な管理が可能になるため、運用負荷を大幅に削減できます。
AWS Systems Managerの料金
AWS Systems Managerは、多くの機能を無料で利用することができます。例えば、Run Command や Session Manager、Patch Manager など、日常的な運用管理に必要な機能は追加料金なしで使用できます。ただし、いくつかの機能は有料となる場合があります。特に以下のケースで課金が発生します。
- Parameter Storeの「Advanced パラメータ」
通常のパラメータは無料ですが、暗号化やバージョン管理など高度な機能を利用する場合には追加料金が発生します。 - Session Managerでのログ保存
セッションログをAmazon S3やCloudWatch Logsに保存すると、そのストレージコストが別途発生します。 - Automationのステップ数に応じた課金
Automationの実行回数やステップ数に基づいて料金が発生する場合があります。大規模な自動化処理を頻繁に実行する場合は注意が必要です。 - OpsCenterの高度な分析機能
一部の高度な分析や連携機能を利用する場合には追加料金がかかることがあります。
基本的な利用は無料で始められるため、まずはコストを気にせず試してみることができます。しかし、大規模な運用や高度な機能を活用する場合には、事前に料金体系を確認することが重要です。
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Automationについてちょっと詳しく
AWS Systems ManagerのAutomationは、繰り返し発生する運用作業を自動化する機能です。例えば、サーバーの定期的な再起動やソフトウェアの更新作業、バックアップの実施といった「よくある運用タスク」を自動化することで、IT担当者の負担を大幅に軽減します。また、ノーコードで実装できるため、AWSに詳しくない場合でも利用が可能になります。具体的なユースケースは以下のとおりです。
- 定期メンテナンスの自動実行
サーバーの再起動やソフトウェアアップデートを自動で実施します。これにより、担当者がスケジュールを気にせずにシステムを最新の状態に保つことができます。 - 障害発生時の自動対応
サーバーに障害が発生した場合、自動的に再起動を試みるプロセスを実行します。復旧できない場合には、IT担当者にアラートを送信する設定も可能です。
まとめ
AWS Systems Managerは、AWSリソースだけでなく、オンプレミス環境も含めた統合的なシステム運用を支援する強力なツールです。特に、日々の運用業務を自動化したり、リソースを一元管理したりすることで、IT担当者の負担を大幅に軽減できます。多くの機能は無料で利用できるため、まずは小規模な運用から試してみるのも良いでしょう。AWSの運用に慣れていない企業でも、このツールを活用すれば、効率的で安全なシステム運用が実現できます。これを機に、AWS Systems Managerの導入を検討してみてはいかがでしょうか。