IoTシステムにおける「DX」の鍵を握るエッジAIとは?
目次
エッジAIとは
近年、ネットワークやデバイス、IoT技術の発展から、ユーザーに近い場所でデータを処理する「エッジコンピューティング」が注目されています。エッジAIはエッジコンピューティングから派生した用語で、AIの学習モデルを使い、画像認識などの技術を用いてエッジコンピュータ上でAIによる推論処理を行うシステム形式を指しています。
従来のAWSなどのクラウド上で機械学習を行う形式はクラウドAIと呼ばれ、エッジAIはクラウドAIと対比する概念としてとらえるといいでしょう。
エッジAIは、ITコンサルティング会社のGartnerによると、ハイプサイクル(IT技術のトレンドを表す図表)の2021年版では、最も関心の高いAIテクノロジーとして位置付けられるなど、世界的に注目を集めています(※)。
本記事では、エッジAIが注目される理由や、エッジAIのユースケース等について、記載していきます。
※出典
https://www.gartner.co.jp/ja/articles/the-4-trends-that-prevail-on-the-gartner-hype-cycle-for-ai-2021
エッジAIへの注目が集まっている理由
エッジAIと対をなすクラウドAIは、大量のリソースを利用した高速学習や、精度の高いモデルが利用できるというメリットがあり、現在様々なビジネスにおいて利用されています。
一方で、なぜ近年エッジAIに注目が集まっているのでしょうか。それには下記3つの理由があります。
データセンターや通信インフラの負荷低減
クラウドにデータを転送するためには、クラウドが設置されているデータセンターへ通信が発生します。データ量によっては大量のデータが発生し、テレビ会議でタイムラグが発生するように、通信の品質が悪くなってしまうケースが生じます。
また、AWS(Amazon Web Services)やGoogleCloudといったパブリッククラウドは、データ通信量に対して課金が発生するため、データ量が多いことはコスト効率が悪い場合があります。このような状況と比較して、エッジAIであれば、クラウドへの通信が発生しない、もしくは(必要なデータのみに限定すればよいので)少ない通信量で済むため、クラウドが多用される現在では通信の品質が保たれたまま様々な処理ができるだけでなく、発生するデータ通信量に伴う課金も少なく、コスト効率が非常にいいというメリットがあります。
超低レイテンシ処理のビジネスへの可能性
エッジAIが求められる端的な事例として挙げられるのが、自動車などの自動運転の領域です。AIで画像を認識し、前方のクルマや信号機、歩行者などを判断する、といった仕組みで動く自動運転は、数ミリ秒のレイテンシが重要です。例えば、秒速20メートルの車が、ほんの0.1秒ブレーキの作動が遅れてしまうと、車は単純計算で2mも長く進んでしまいます。
この2mの差は、実際の道路においては人命を奪いかねない距離となります。このように超低レイテンシが求められる状況では、クラウドにおいてデータを処理しているのは間に合わないため、エッジAIが求められます。
プライバシー保護の関心の高まりと規制強化
そもそもデータによっては、いまだにクラウドにあげられないような機密情報も数多く存在します。例えば顔や指紋などの生体情報のような個人情報は、パスワードやメールアドレスのように容易に変更ができません。
このような情報をクラウドにて処理をするような設計だと、ネットワーク経路の途中で情報漏洩が発生してしまった場合には非常にリスクがあります。このように、非常に高いセキュリティレベルが求められる一方でデータの利活用が必要な場合には、エッジAIは有力な選択肢として考えることができます。
エッジAI運用基盤を提供するJetsonエッジMLOpsのPoC支援サービスはこちら→
DXを実現するエッジAI
DX(デジタルトランスフォーメーション)とはIT技術を活用して、業務プロセスの改革や新たなビジネスモデルを創出することにより、企業競争力を高めることを指します。エッジデバイスやそれを用いたエッジAIは、業務プロセスの改革や新たなビジネスモデルの創出のヒントとなる技術です。なぜそう断言できるのか、記載していきます。
なぜ業務プロセスは効率化されないのか
DXには業務プロセスの改革が必要であると記載した通り、現在様々な企業において業務プロセスの改革が進められています。しかしながら、様々な業務プロセスを改革するためには、何がボトルネックなのかを見極めて、全体を効率化する必要があります。様々な業界においては機械やコンピュータによる判断よりも、人が判断し、作業したほうが効率がいいという、機械やコンピュータの作業速度がボトルネックとなるケースが多々存在していました。
様々な情報のデータ化
エッジデバイスはカメラやセンサーなど、様々な種別のデバイスのことを指しています。これは、人の器官で考えると、いわば目や肌のような役割をします。つまり、エッジデバイスで実施できることは、我々が見聞き・感じているようなことをデータ化することができる、といえるでしょう。仕事や業務プロセスにおいては、感覚を頼りにしていたタスクをデータ化することができる、といえるでしょう。
データ化した情報を分析する
様々な情報をデータ化し、分析してAIなどのモデルにしておくと、従来は個々人のスキルや感覚に頼っていた様々な業務が機械的にできるようになります。これによって、業務の効率化だけでなく、品質の向上を行うことができます。従来はクラウドAIであり、人が即時的に判断するようなタスクは効率化が難しいという側面がありました。
近年では、エッジAIを使うことで、様々なデータを機械やコンピュータが即時的に処理することが可能になりました。そのため、ボトルネックが解消されたことによりAIが適用できる業務範囲が格段に広がり、業務プロセスの改革に大きく貢献することができるようになりました。
エッジAIのDX適用事例
エッジAIは近年導入が進められている技術ですが、摘要が考えられる領域について列挙します。いずれにしても、低レイテンシな判断が求められる場面や、セキュリティについて考慮が必要なユースケースに適用が進められると考えられます。
スマートファクトリー
工場に様々なセンサーを取り付け、データにより製造を制御する工場のことをスマートファクトリーといいます。取得したデータをエッジAIで処理することにより、機械の故障や製造した製品の欠陥品の検知といったリアルタイム性が重要な業務にも対応することが可能になります。また、サイバーセキュリティーの脅威など問題を示すデータの異常をより早期に発見し、工場をセキュリティインシデントによる稼働停止から防御することも可能です。
自動運転
先述の通り、自動運転を行っている車では、人の安全を確保するために反応時間を最小限に抑える必要があります。車はエッジコンピューティングのデザインに基づき、最小限の遅延でリアルタイムに重要な判断を次々と実行していきます。
無人店舗
Amazon本社に併設されている『アマゾンGO』では、リアルタイムの画像認識AIにより、入店した客と取得した商品を認識し、会計を自動的に行うことができます。店舗オペレーションの効率化・省人化により、単純労働を機械化することで人件費を抑えることが可能になります。
電力の効率的な配電
電力の消費状況はその日の気温等に伴い刻々と変化します。また、そのような刻々と変化する情報をリアルタイムに分析し、電力需要を予測することで供給と消費の状況に効率的に配電する仕組みや発電所の稼働を調整するような仕組みを整えることができれば、ピーク電力を低減して安定した供給を実現することもできます。
エッジAI運用基盤を提供するJetsonエッジMLOpsのPoC支援サービスはこちら→
まとめ
エッジAIは様々なデータを即時に処理することで、今まで人が判断をして行っていた業務を任せることができる可能性があります。エッジAIを利活用することで、業務プロセスの改善はもちろん、5Gなどの技術を組み合わせることで新たなビジネスモデルの創出も可能となり、DXの達成がより近づくものになると考えられます。エッジAIのユースケースは記載したもの以外にも様々な両機での適用が考えられるため、専業のベンダーに相談してみるのもいいでしょう。