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エッジ活用支援コラム

エッジコンピューターとAI

エッジAIとはどんなものか?

「エッジAI」とは、「エッジコンピューティング」と「AI」を組み合わせた概念です。つまり、モバイル端末やデータが発生するデバイスの近くに配置したサーバーなど、利用者の近くにある機器においてAIの処理を実行することを意味しています。本記事では、エッジAIにはどのような特徴があるのか、どのようにしてビジネスの変革をもたらすことができるのか、について記載していきます。

いままでのAIの実行は?

AI(人工知能)は統計学や機械学習、ディープラーニングといった技術を駆使して実現しています。そのため、AIのモデルを作成するには多大な計算処理が必要になっています。例えば、囲碁のAIは40層以上の計算が実行されており、そのような計算を実現するためには大量かつ高性能なCPUやコンピュータが必要でした。

したがって、従来のAIの実行はそのようなリソースが大量に提供されている、クラウド上で実行されることが大半でした。しかしながら、処理するデータのセキュリティや運用の効率性から、近年ではエッジAIも非常に注目されてきています。

エッジAIの仕組み

エッジAIは現状、下記の2つのパターンの仕組みが主流です。

エッジデバイス自体が機械学習の学習と推論を両方実行する方式

IoT機器やセンサーなどの端末に高性能なCPUなどを搭載し、端末が学習と推論を両方ともに行います。ユースケースに対して非常に柔軟にモデルを構築したり、再学習を行ったりすることが可能になり、さまざまなユースケースに柔軟に対応が可能です。また、再学習によりモデルの正確性もある程度担保することができます。

デメリットとしては、1つ1つのデバイスが非常に高価になることと、多くの電力を消費することが挙げられます。とくにIoTデバイスなどは低電力にする必要があり、このように高出力の電力を使うような高性能コンピュータは設置場所が限られてしまう可能性があります。

学習済みのモデルをエッジデバイスにロードし、エッジデバイスにて推論を行う方式

事前にクラウドなどを利用してAIの学習モデルを作成して、その学習済みモデルをエッジ・デバイスに配布しておき、データがデバイスに飛んできた際に対応した処理を実行する方式です。モデルの学習自体はクラウド側で実行し、デバイスにおける計算は最小限とすることで、低電力でもデバイスにおける処理が可能となっています。一方で、モデルの学習とデバイスへの配布を定期的に実施する必要があり、運用は少々面倒になってしまうこともあります。

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エッジAIがなぜ注目されるのか?

エッジAIはクラウド上で実行するAIと比較して『リアルタイム性』『セキュリティ』のメリットが際立っているため、現在注目されています。どのようなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。

リアルタイム性

エッジAIはリアルタイム性(素早く判断できること)が要求される場面での活躍が期待されます。近年では、製造ラインにおける製品の品質検査、自動車における自動運転、遠隔医療における診断など、リアルタイム性が必要な領域にAIを適用するニーズが高まっています。

例えば、技術の進歩が著しい自動運転において、自動車の危険回避にAIを適用し、目の前に現れた人や物体を認識し、急ブレーキをかけるようなシーンを考えると、クラウドAIではネットワークを通じてデータをデータセンターに送信して処理を行いますが、それではタイムラグが発生し、場合によっては人命にかかわる危険性があります。一方でエッジAIにおいては、機械学習による画像処理がインターネットを経由しないため、レイテンシ(遅延)がなく、短時間で画像認識、制御を実行することができます。

このように、リアルタイム性が求められるような場面において、エッジAIの活用は非常に注目されていると言えるでしょう。

セキュリティの強化

エッジAIは、情報漏洩のリスクが懸念される重要データであっても、端末内に留めながら処理することが可能です。クラウドでデータを集約し、モデル作成などを行う場合は、場合によっては顔認証システムなどセンシティブなデータを扱うことに向けて特別なセキュリティ対策を行う必要があります。

一方エッジAIであれば、インターネットへの接続を最小限にすることができ、場合によってはセンシティブなデータをデバイス内だけにとどめることが可能になるので、より一層セキュアであるといえるでしょう。

エッジAIの事例

エッジAIの活用事例について記載していきます。

製造設備・製品の監視

エッジAI搭載のセンサーにより、工場内の設備や製品をリアルタイムで監視できます。設備をリアルタイムに監視することによって、稼働状況の軽微な変化を検知し、設備の故障・停止を防止することが可能です。また、製品をリアルタイムに監視することによって、不良品の選別等が可能になり、製品の品質向上につなげることができます。

顔認証システム

生体認証の1種で、顔の特徴をベースに本人確認を行う認証システムがあります。顔認証システムは複数の顔写真をデバイスにおぼえこませることによって、パスワード入力等をせずに認証を行います。近年ではスマートフォンの認証手段として利用可能であったり、企業の入退館に利用されていたりすることがあります。

顧客の行動分析

店舗や施設に設置したエッジAI搭載のカメラで顧客の行動データを分析します。例えば、顧客の回遊経路を分析することで、商品のレイアウト変更や商品棚の見直しに役立てることが可能です。また、リアルタイム性を活用すると、商業施設から出そうな顧客を検知して、クーポン等をプッシュ通知で顧客に送付する、といった利用方法も可能です。

混雑状況の把握

テーマパークやホテルなどでは、カメラに映っている人数を把握させダッシュボード化させておくことで、来訪者にアトラクションやレストランなどの施設ごとに混雑率を集計し、表示させる、といったことを行っています。来訪者の待ち時間を短縮させることができるため、ユーザーエクスペリエンスの向上につながっています。

エッジAIに必要なデバイスは?

エッジAIに必要なデバイスについて記載していきます。エッジAIを実行するためのハードウェアにおいては、パフォーマンス、システム効率、消費電力において考慮する必要がありますが、紹介する下記のデバイスにおいてはエッジAIに特化した、パフォーマンスやシステム効率が優れた製品も存在しています。

GPU

GPUとは、CPUと同じく演算装置で、通常のCPUと比較して並列計算能力に優れており、AIのモデル学習に向いています。GPUを生産しているNVIDIA社の実験では、GPUはCPUと比較して、最大20倍以上の速度で計算処理が可能となっています。

GPUには、いわゆるサーバー向け(ワークステーション)と、組み込み向けのものの2種類がありますが、エッジAIでは組み込み向けGPUを利用します。組み込み向けGPUはサーバー向けのものと比較して性能は若干低くなりますが、消費電力がより小さいメリットがあります。

AIアクセラレータ

ディープラーニングや機械学習などのAIアプリケーションを高速化するために設計された特殊なハードウェアのことです。エッジデバイスにおいてモデル構築を行うようなケースでは、頻繁にデータの計算を行うことがあるため、AIアクセラレータを搭載したデバイスであれば高速にデータを処理することができます。

また、データの処理時間が短くなる関係上、消費電力も抑えることができます。村田製作所の実験によると、アクセラレータを用いた場合は、CPUを用いた場合と比較して最大30倍以上の速度で計算が可能になるとのことです。
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まとめ

エッジAIはこれまでのクラウドで処理を行うAIと比較してリアルタイム性が特に優れており、AIの利活用における可能性を大幅に拡大します。一方で、導入に向けては特殊なデバイスの利用や、エッジAIの実装方式について考慮が必要な場合も存在します。エッジAIはまだまだ国内においては事例も少ないことから、導入に向けては詳しいベンダーに相談してみるのもいいでしょう。